「順位はおまけ」。100マイルを笑顔で走り抜くヤマケンマインドと未来に残したい自然

「順位は​おまけ」。​100マイルを​笑顔で​走り抜く​ヤマケンマインドと​未来に​残したい​自然

山本健一さん第3回

前回は、ヤマケンさんがレース前に植物性食品を摂る理由や、極限状態になると訪れるという「野生状態」について興味深いお話を聞かせてもらいました。最終回は、ヤマケンさんが思うトレイルランニングのピースフルな魅力や、子どもたちに残したい自然についてうかがいます。

※この記事はVoicyの対談の要約です。発言の意味を変えないように配慮して、一部省略・集約をしています。詳しくはVoicyの「 みんなにうれしいGREEN KEWPIEチャンネル 」をお聴きください。

山本健一

山本健一

やまもとけんいち

トレイルランナー

1979年、山梨県生まれ。信州大学教育学部を卒業後、 山梨県立韮崎工業高等学校の教員に。教員時代にトレイルランニングと出会い、2008年に第16回日本山岳耐久レース(通称ハセツネ)優勝。2012年、ウルトラトレイル・マウントフジ(通称UTMF)3位。同年にグランレイド・デ・ピレネー優勝。2013年、アンドラウルトラトレイル2位などの輝かしい成績を残す。総距離約160〜170kmの100マイルレースを主戦場とする日本を代表するトレイルランナー。愛称は「ヤマケン」。

ヤマケンさんを​変えた​「走れるだけで​幸せだよね」の​一言

前回、ヤマケンさんが自身の心と体の声を聞いて食べ物を選ばれているというお話に、深く感銘を受けた様子の前田さん。100マイルという超長距離を笑顔で走り抜くヤマケンさんが、一番大切にしている「楽しむ」ことから3回目のトークは始まります。

前田: レース中の画像を見たんですけど、すごく笑顔で楽しそうに走っていらっしゃるなと思いました。

山本: 僕の場合は、レースは順位やタイムを気にするよりも全体を楽しむのが一番重要で、そういうことを考えながら走っています。

前田: 結果もすごく大事な中で、楽しむ心でいるのは難しいのかなと思うんですけど、いかがですか?

山本: でも、最初の頃は一番を狙っていたんですよ。高校の時も全国優勝するとか、モーグルでオリンピックに出るとかって決めていたので。その流れで1位を取りたいという気持ちはずっとあったんですけど、ある時大きな怪我をしまして。運動できるかできないかぐらいの状態になった時に、家の近くのあるトレーナーさんに出会ったんです。そのトレーナーさんに言われた言葉が、また(自分に)単純にハマってしまいまして。

前田: 腑に落ちる言葉だったんですね。どんな言葉だったんですか?

山本:「走れるだけでラッキーでしょ」、「走れるだけで幸せだよね」と言われたんですね。(トレイルランニングを)やめるつもりで(トレーナーさんのところに)行ったので、それを言われた時に、気持ちがまたその言葉に反応しまして。「うん、そうだな」と思って、今のこの状態や怪我も受け入れてやってみようと。その時から、レースは1位を狙うよりも楽しむ(ようになりました)。楽しめることって本当に幸せだなと思いますし、その場を楽しめればいいかなと。そしたらすごい体がリラックスしてきましたね。

前田: 先にあるゴールに向かって速く走るぞというよりも、目の前の瞬間瞬間を楽しんでいたら、結果として成績も良かったりするんですかね。

山本: そうですね。本当に結果はおまけ、付録ぐらいのつもりで(笑)。「走っている最中に何を考えているんですか?」ってよく聞かれますけど、一番僕が考えているのは、ゴールでインタビューされている時の受け答えです。

前田: えー、そうなんですね!

山本: しかも外国だと現地の言葉で簡単に(言えるように)。わかんない言葉は一緒に走っているランナーに聞くんですよ。「これはなんていうの?」とか、英語で簡単に聞けるじゃないですか。それを考えているうちにゴールに近づいていって。しかも面白くてワクワクすることを考えているので、体がどんどん動いて、ゴールしないっていう選択肢はなくなりますし、それでいつの間にかゴールに着いちゃっています。

大好きすぎて二度出場したというアンドラウルトラトレイル。2013年、2016年のレースでどちらも準優勝(写真提供:藤巻 翔)

前田: ランナーの方との会話は、レースの中でもあるものなんですか?

山本: 会えばほぼ会話します。それも不思議なところなんですけどね。

前田: 外国の選手にも結構話しかけたり?

山本: 外国に行けばほぼ外国人選手しかいないですね。特に(開催場所が)ヨーロッパのことが多いので、相手はヨーロッパ人で私は日本人で、言葉はお互い通じないんですけど、できない英語をなんとか使いながら話しますね。

前田: しかもお互い走っているんですよね?すごい!印象に残っているコミュニケーションや会話はありますか?

ウルトラツール・モンテローザのレース中に友達になったというイタリア人のクリスティアーノさん。2時間ほど一緒に走った後、ヤマケンさんは準優勝(写真提供:藤巻 翔)

山本: アンドラっていうスペインとフランスの間にある小さな国のレースを走っていた時に、フランス人の選手と約10時間レースを共にすることがあって。お互いに英語はそんなに喋れないんですけど、10時間ずっと喋っていたんですよ。どんな会話なのか覚えてないけど、喋りっぱなしで居心地よく。

前田: 10時間も!?

山本: しかもその選手とはもう1個エピソードがあって。途中区間で2〜3時間ぐらい山を下らなきゃいけないところで、その選手の水が切れちゃったんですよ。持っている水が切れると動けなくなっちゃうし命の危険もあるんですけど、僕は400mlぐらいのボトル1本分ないくらいの水を持っていたんですね。その水を二人で飲みながら、次のチェックポイントまで下りたこともありましたね。

前田: ただ会話するだけじゃなくて、時には助け合いながらゴールまで向かっていくことがあるんですね。

山本: トレイルランニングはそういうところが楽しみの1つでもあります。

前田: 一人で走って自分と向き合うというイメージがあったんですけど、実は団体競技のように仲間がいるような感覚ですね。

山本: そうですね。走るのは一人なんですけど、同じように走っているランナーがいて、サポーターという地元の応援してくれる人もすごい声をかけてくれるんですよ。ここ(アンドラ)の言葉で言うと「ベンガ!ベンガ!」って。「がんばれ!がんばれ!」って意味なんですけど、ずっと言ってくれるんです。そうするとなんか体が動いたり、あるいは日本から一緒に来たサポーターもいたりして、そういう人たちのところ(チェックポイント)に行って、(走っている最中に)起こった面白いことを話したいなとか。そういうことが全て合わさってレースが進んでいますね。

前田: 走った人にしか出会えないような仲間だったり、絆だったりがあるんですね。

エフンミラクウルトラトレイル。真夜中、エイドステーションを出た先にあった飲み屋街を駆け抜ける(写真提供:藤巻 翔)

山本: あ、1つまた思い出しました!これも珍しいんですけど、一緒に手をつないでゴールすることもあります。僕は過去に2〜3回あったんですけど、(二人とも)2位なのに一緒に手をつないでゴールしたこともありました。そこで競わないのかって普通の人は思うかもしれないですけど、残り10kmくらいから「一緒にゴールしようか」って話をするんですよ。それで一緒に走ってゴールして。

前田: まさに結果よりも大切なものがそこにあるんですね。

山本: 本当に、全然結果は意識していない証拠の現れだと思います。

前田有紀

ゴールに向かって速く走るよりも、目の前の瞬間瞬間を楽しんでいるんですね

山本健一

結果はおまけ、付録ぐらいの感覚です

甘​酸っぱいは​ちみつ​レモンの​パンケーキ

ゲストにGREEN KEWPIEを使った料理を食べていただく「みんなにうれしいGREEN KEWPIEレシピ」のコーナー。3品目は、生地に「HOBOTAMA 加熱用液卵風」が使われているパンケーキです。生地に塩麹を入れたことで、もちもち感が増しています。はちみつがたっぷりかかったごほうび感のある一皿に、ヤマケンさんの反応は?

前田: ヤマケンさんにとって欠かせない食材ってありますか。

山本: 色々あるんですけど、1つ重要なものがはちみつです。昔からはちみつが大好きで、レース中もはちみつ味のジェルを食べるし、レース前にもはちみつを摂るんですね。僕がいつも参考にしている信頼できるランニングの参考書があるんですけど、それには(レース開始の)48時間前からはちみつを200g摂りましょうと。

前田: 200gってかなりの量ですよね!

山本: 結構多いですね。これくらい摂りましょう、そうすると体が調子良くなるよと。僕は真面目にそれをやっていまして、そのまま舐めたり、パンに塗ったりしてなんとか48時間で200gを摂るようにしていますし、そのぐらい好きです。

前田: 200gのはちみつはすごいですね。そんなはちみつ好きのヤマケンさんに、今回はごほうび感たっぷりのメニューをご用意しました。題して、『甘酸っぱいはちみつレモンのパンケーキ』です。

山本: おお〜。これはごほうび!

前田: ふっくらと焼きあげているパンケーキなんですが、パンケーキはお好きですか?

山本: もう大好きですね。見ただけでよだれが出そうな(笑)。

前田: あはは。こちらは、生地に「HOBOTAMA 加熱用液卵風」を使ったパンケーキです。甘さ控えめのパンケーキとさわやかなはちみつレモンの組み合わせで、さっぱりとしたハーモニーが楽しめます。また今回のレシピはバターを上にのせているんですけども、オリーブオイルでも代用できますので、オリーブオイルを使えばレース前は植物性食品しか摂らないヤマケンさんも安心して楽しむことができます。パンケーキって、この優しい色合いも本当にほっこりして、見るだけでうれしくなりますよね。

山本: うれしくなりますね〜。いただきます。本当にもちもちで、はちみつレモンが合う!おいしい。

前田: うん、本当にもっちりしてますね。

山本: しっかりお腹にもたまりますし、おやつというより主食にもなりそうな。

前田: このはちみつレモンも、おっしゃった通りすごくこのパンケーキに合っていて、さっぱりとした清涼感もありますね。

山本: はちみつ、合いますね。はちみつで思い出しちゃいました。さっきジェル(補給食)にもはちみつ味があるって言いましたけど、僕ははちみつが本当に大好きで、レース中にはちみつ味のジェルを最大96個摂ったことがあるんですよ。

前田: え!?そんなに持っていくんですか?すごいですね。

山本: (全部持って走ると重いので)サポートの仲間にチェックポイントで分けてもらうんですけど、そのぐらいはちみつ大好きなので、このパンケーキも最高です。

前田: やっぱりヤマケンさんは「これが好き!」ってなったらとことんっていうところがあるんですね。

山本: 変でしょ(笑)。

前田: いやいや、レース中もそんなに食べているとは。でもこのパンケーキ、朝ごはんにもとっても良さそうですよね。

山本: 本当ですね。朝からこんないいもの食べたら、もうその日がんばれちゃいますね。

前田: わが家は、いつも日曜日はパンケーキの日って決めていて。それ以外の時はパンだったりご飯だったりするんですけど、日曜は子どもたちと一緒にパンケーキを食べていて、このレシピも作ってみたいなと思います。

山本: いいですね。うちも真似しようかな。

山本健一

もちもちのパンケーキにはちみつレモンが合っておいしい!

前田有紀

さっぱりとした清涼感も感じますね

「ありがとう」と​感謝の​気持ちで​走ると​自然と​体が​動く

はちみつ味のジェルを96個摂取するという“決めたらとことん!”なヤマケンさんらしいエピソードにさらに会話が弾む二人。そして話題は、山を走る中でヤマケンさんが感じる数々のうれしい瞬間へと移ります。

前田: トレラン(トレイルランニングの略)には過酷なイメージがあったんですけど、これまでヤマケンさんのお話を聞いてきて、そうではない楽しさだったり喜びだったり、ドラマを知ることができました。トレランって、人を幸せにするスポーツなんですね。

山本: そこに気付いていただけて本当にうれしいです。レース中は普段味わうことのできない体験がたくさんあって、それは仲間からの助けであったり、真夜中に見える星空だったり、本当にいろんなことが起こって、すごく感謝の気持ちが湧いてくるんですね。そういう気持ちで走るとよりパフォーマンスが上がって、がんばろうと思うよりも「ありがとう」と思って走ると、すごく体が動いてくるんです。しかもワクワクしてきますし、次のチェックポイントにまた行って会いたいなとか、そんな風に感じられるスポーツなんですよね。夜空の星なんかは、僕はもうライトを消してしばらく眺めちゃいますね。

前田: 立ち止まって?

山本: はい、レース中に。すごく綺麗なんですよ!本当に誰もいない山の中で、街からもすごい遠いところなので真っ暗なんですよね。これはもう絶対に普段は見られない景色なので、(立ち止まって)見ちゃいますね。

前田: その瞬間、足を止めてしばらく景色を眺めたいって気持ちになれるのも素敵ですね。

山本: そういう意味では、すごく平和なスポーツだなっていつも感じながら走っています。

スイス・ツェルマットにて、名峰マッターホルンをバックに。ウルトラ・ツール・モンテローザの現地調査での1枚(写真提供:藤巻 翔)

前田: 出会った人、そして地球にもありがとうって気持ちで競技を進めていくんですね。すごく素敵です。よく今は環境問題が話題になりますけど、山に頻繁に入られる中で感じることってありますか?

山本: できるだけ今の、そのままの自然の姿でいてほしいですね。やっぱり色々と開発が進んだりして、どんどん変化をしてきているのは感じます。そうすると、今自分たちが住んでいるところで起こっている温暖化とかいろんなことにつながってきて、生物の多様性も変わってきたりとか、今度は自分たちの生命に危険が及んだりとか、全部つながっていると思うので、できるだけ自然を残してもらいたい、20年後も30年後も自然はそのままであってほしいと思いながら走っています。

前田: ニュースで見聞きするだけじゃなく実際に山に入ることで、頭ではなく心で感じられることをまた地球に向けていけたらいいですよね。

山本健一

レース中にライトを消して星空を眺めたり、平和なスポーツだなと思います

前田有紀

出会った人や地球に「ありがとう」という気持ちで走っているんですね

僕たち以上の​距離感で​子ども​たちに​自然と​付き合って​ほしい

日々の練習や海外でのレース中など、雄大な自然と接する機会の多いヤマケンさんだからこそ感じる、リアルな環境問題への思い。最後にヤマケンさんにうかがうのは、子どもたちが生きる未来に残したい自然について。

前田: 私も7歳と4歳の子どもがいるんですけど、住まいの鎌倉もたくさん山に入れる道があるので、走れるかはわからないけど、どんどん山に入って、いろんなことを感じたいなと思いました。改めてヤマケンさんにうかがいたいのですが、子どもたちの生きる未来に残していきたい自然ってどんなものですか。

山本: 僕たちが今までに見た素晴らしい自然はやっぱり心に残っていますし、そういうものは子どもたちにも見てもらいたいなと思います。僕たちが自然と付き合う距離感と、子どもたちが自然と付き合う距離感っていうのは、多分今世の中が変化しすぎて情報化が進んで、かなり変わってきていると思うんですね。子どもにも僕たちと同じぐらいか、それ以上の(近い)距離感で自然と付き合えるように、体験させられる環境を自分自身作っていけたらいいなと思います。

前田: そうですね。都会にいるとすごく遠くにある自然を遠くから見るような感覚になってしまうんですけど、やっぱり定期的に触れに行ったりして、近いところにいつもあると思えるといいですよね。

山本: 何かイベントでもいいと思うんですけど、子どもたちにも自然に触れてもらいたいなと思います。

前田: ヤマケンさんの活動を通して、たくさんの子どもたちが自然の魅力を感じられたらいいですね。3回にわたってうれしいお話をたくさんお話しいただいて、心の声を聞くことや、自分に素直になるというのもすごく大事だなと思ったので、私もヤマケンさんのお話を日々に活かしたいと思います!

山本健一

僕たちが今までに見た素晴らしい自然を子どもたちにも見てほしいです

前田有紀

定期的に自然と触れ合って、いつも近くにあるものだと感じられるといいですね

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前田有紀
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