飲食店経営の成功確率アップに向けた
食材・人件費の削減について

飲食店の経営において、その店が成功するための収益構造『儲けの構造』の理解が必要です。ここでは、≪売上-費用=利益≫という単純な収益構造の要素である費用に着目してみたいと思います。

儲けの構造から費用について考える

事業における基本的な収益構造は次の通りです。

  • ①売上-売上原価(原価)=売上総利益(粗利)
    ※売上原価→飲食店では主に食材費です。

  • ②売上総利益-販売費及び一般管理費(販管費)=営業利益
    ※販管費→飲食店では主に人件費・家賃・水道光熱費・広告宣伝費・リース料・減価償却費などです。

その他、営業外損益、特別損益を経て最終的に赤字であったか黒字であったか確定する訳ですが、通常は営業利益を意識して事業を運営します。

日々の業務に追われてしまいがちですが、原価や利益といった費用を正しく把握・管理することが儲けの構造を構築する第一歩となります。

FLコスト、FL比率について

飲食店において金額インパクトが大きい費用といえば、原材料費である食材費(Food cost)、および人件費(Labor cost)です。この2大費用の合計は、各頭文字から『FLコスト』と呼ばれています。(『プライムコスト』と呼ばれることもあります)そして、FLコストの売上高に占める割合をFL比率といい、飲食店にとっての経営指標の一つです。

一般的にFL比率は、概ね60%±5%が適切と言われます。FL比率が55%以下なら、収益性の高い飲食店といえ、65%を超過するならコスト高の飲食店といえます。

なお、あくまで参考指標ですが、日本政策金融公庫が平成27年4月から12月までの間に融資を実行した企業の決算書に基づく統計指標では、一般飲食店の平均売上原価率(≒食材比率)は35.8%、人件費対売上高比率(人件費率)は33.1%、合計で68.9%とFL比率の実態は理想より高めの数値となっているようです。

FL比率の『F』について

食材費(フードコスト)は、その店の販売戦略・コンセプトと連動します。高級料理店なら単価の高い食材を一定量仕入れ、ファーストフード店なら低価格な食材を大量に仕入れるといった具合です。

粗利を増やす為には、食材費の絶対額ではなく原価率を抑えることが重要です。例えば、高級料理店で食材費を抑えるために食材の質を落とせば、固定客の足が遠のき、削減した食材費以上の売上減に繋がる可能性があります。そうなるとかえって原価率の上昇を招くこととなってしまうでしょう。単純に食材費の削減を考えるだけではうまくいきません。

一方で食材費を増加させても原価率は下がる場合もあります。例えば、従来は700円で豚肉を仕入れて1,000円でとんかつ定食を提供していた【とんかつ屋A】が、高品質なプレミアムポークを1,200円で仕入れる場合です。『この町でプレミアムポークを使ったとんかつ御膳(2,000円)が食せるのは、【とんかつ屋A】だけです』と宣伝し、高価格帯の販売が伸びたとします。この場合、食材費は500円増えましたが、原価率は70%から60%に改善し、販売量も増加したので、利益を増加させることができるのです。

また、外部要因によっても食材費は変動します。昨年もありましたが、天候不順による野菜の高騰などです。この場合は、原価率の上昇抑制策を取る必要があります。

  • (a)従来と同じメニューでも、盛り付けを工夫し野菜の提供量を調整する。
  • (b)高利益率メニューの販売数を増加させる。
  • (c)一時的に野菜を使うメニュー数を減らし、ロス率を低下させる

等々、工夫により影響を最小限に抑えることが重要です。

FL比率の『L』について

飲食業は一般的に【労働集約型産業】と言われます。【労働集約型産業】とは、営業活動を営む上で、労働力に対する依存度が高い産業のことです。そして、多くの飲食店はこの労働力の確保を課題としています。そのため、一人当たりの人件費も上昇傾向にあり、(売上の増加がなければ)人件費対売上高比率(人件費率)およびFL比率は上昇していきます。

人件費管理における経営指標には次のようなものがあります。
例えば

  • (a) 人時(にんじ)売上高=
    売上高÷全従業員の労働時間数合計
    標準4000円、目標5000円以上
  • (b) 売上高対人件費率=
    人件費÷売上高
    標準22~28%、目標25%以下
    (標準値には福利厚生費は含みません)
  • (c) 労働分配率=
    人件費÷粗利率
    標準38~42%、目標35~37%
    《上記の標準・目標値は、独立行政法人
    中小企業基盤整備機構HPより参照》

人件費コストが上昇傾向にあっても、その上昇率以上に売上高や粗利益を増加させることが出来れば、理論上人件費率や労働分配率は低下し、利益率は上昇します。

以下に、人件費を削減せずに売上を増加させる方法の一例を記載します。

従業員教育を徹底し、サービスレベルの上昇により、顧客のリピート率を高める。

サービスの基本となるのは、『笑顔』と『気配り』。接客力に磨きをかけ、顧客満足度向上に努めることが大切です。

オペレーションを見直し、作業効率を改善させる。

  • 選択と集中
    注文頻度の多いメニューを優先し、全体のメニュー数を縮小すれば、アルバイトでも調理が出来、調理時間の短縮にも繋がります。また、食材のロス率低下や保管スペースの小規模化にも貢献します。
  • 業務用商品の導入
    ソースやドレッシング、サラダなどに業務用製品を導入する。半調理済み製品を積極的に導入することで、調理時間を大幅に短縮する事ができます。

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  • セルフサービスの導入
    飲食店の種類によっては、水の提供をセルフサービスとしたり、ドリンクバーを導入することで人件費削減に繋がります。
  • 動線の見直しや5S運動の導入 主に製造業で導入している動線分析(どの様に動けば最短距離・時間で業務を遂行できるか)や5S運動(整理・整頓・清掃・清潔・しつけ)は小さな施策ですが、数年間の累積で考えると大きな時間(=人件費)削減となります。

まとめ

ここまでFLコストについて述べてきました。繰り返しとなりますが、FLコストは金額ではなく、比率で考えるものです。食材費については、戦略的に高価な食材を使うことで、上昇することもあれば、外部環境要因で上昇することもあります。人件費についても、単価の上昇は不可避なのかもしれません。
しかし、経営者の創意工夫・情熱次第で、食材費・人件費の上昇率以上に売上を増加させることが出来れば、FL比率は低下し、利益体質の飲食店へなることもあります。数字にとらわれ過ぎず、よりお客様に喜んでいただけるお店作りの目安として活用してみてください。

2017/04/20時点