vol.1 ー焼野菜 銀河団ー

鉄板で焼く焼き野菜とナチュールワインを売りに20代の若い世代から人気を集め、14坪33席で平日1.5~2回転、週末2回転する繁盛店『焼野菜 銀河団』。代表の達川京平さんに、野菜を主力メニューとした経緯や、商品開発のポイント、オペレーションの工夫などについて聞きました。

取材協力店:焼野菜 銀河団

若者が集うサブカルチャーの街、下北沢で週末3回転する人気居酒屋『串焼きと煮野菜 下北沢の零や』に続く2店舗目として、2024年4月オープン。鉄板で調理する「焼野菜」とナチュールワインを看板に据える。


右から2番目が達川さん

代表:達川京平さん

1999年京都府福知山市生まれ。飲食業を営む父の運営する店舗を受け継ぎ、17歳で個人事業主として独立。福知山市内に『鶏料理と炉端焼きあぶりや』など4店舗を展開する。2021年に東京へ進出し、2022年4月、『串焼きと煮野菜 下北沢の零や』をオープン。2024年4月、2店舗目となる『焼野菜 銀河団』を開業。

肉や魚に比べて、
野菜業態はブルーオーシャン

『焼野菜 銀河団』のメニューは、主力メニューの「焼野菜」10品のほか、冷菜、温菜で約20品。野菜料理を打ち出した理由について達川さんは、原価コストのバランスをとりやすいことに加え、「肉や魚に比べて、野菜業態はブルーオーシャン」と語ります。

「野菜料理に着目したのは、自分が地元で最初に立ち上げた居酒屋からです。福知山は田舎で、身近に新鮮な野菜がたくさんあったことが大きな理由ですが、東京でも野菜料理を売りにした居酒屋はあまりないのではと感じていました」(達川さん)。

一般的に野菜は、原価が安い分、商品価格を上げにくいという一面もありますが、達川さんは「商品価値は、素材だけではなく演出、味つけ、サービス、アルコール、空間などを含めてのトータルバランスで決まります。専門店化することで付加価値を高められると思います」と語ります。では実際に、どのように商品価値を高めているのでしょうか。詳しく解説していきます。

メニューの価値は、
素材×文化×調理法の掛け算で決まる

「野菜が主役でない料理」
もあえて用意する

次に、売り方の工夫です。「野菜料理が売りの居酒屋」と聞くと、メニューの大半が野菜を主役にした料理だという印象を受けますが、達川さんは「野菜を食べている感がストレートに伝わる料理」と、「気づいたら野菜も食べていた」という料理の両方をバランスよく揃えることが大事だと説明します。「野菜が主役の業態とはいえ、いかにも野菜ばかりのメニュー構成ではお客様も食べ飽きてしまってそんなに量を食べられず、お酒も進みません。そこで焼野菜以外のメニューは、肉のグリルやリゾット、パスタなどお酒との相性を考慮したメニューを用意。さらに焼野菜も、野菜をソテーしたシンプルなメニューと、肉や魚と組み合わせたメニューの両方を揃えています」(達川さん)。

一方で、売りの「焼野菜」を確実に食べてもらうための工夫もあります。「焼野菜」はメニュー表のトップに書き、常時10~12品を用意。1皿2人分のポーションを意識し、2人で3~4品を食べてもらえるようにしています。さらに生野菜のサラダは置かず、サラダメニューはポテトサラダのみに限定。食材ロスやオペレーションの観点から日持ちのしない葉物野菜はメニューにオンリストせず、仕入れがあった場合は日替わりメニューや、グランドメニューの食材の一部として用いる、お通しのスープに使うなどの工夫をしています。


お通しのスープ

マヨネーズは、「食べたことある」
という親しみを生む隠し味

『焼野菜 銀河団』は、下北沢という場所柄、20代前半~40、50代までと客層は幅広いですが、中央値は30代前半と比較的若くなっています。20代前半のワインビギナーのお客も多いため、アルコールのメニューにおいては、ナチュールワインが初めての人も気負わず楽しんでもらえるように、ワインのメニュー表には産地、品種の表記は一切なく、かわりに「フレッシュでいちごみたいなやーつ」、「ライチやオレンジみたいなやーつ」といった具合に、味わいのニュアンスを表現するにとどめています。こうした店づくりに合わせて料理も、本格的なイタリアンやフレンチではなく、狙うは「居酒屋ライクな味」。一般的なお客にとってなじみのある味にすることで、親しみやすさを打ち出しています。その工夫のひとつが、焼野菜などのメニューにマヨネーズを隠し味に使っていること。「マヨネーズを少量入れると、お客にとって『食べたことのある味』、『舌なじみのいい味』になり、それが『おいしい』という評価につながります」と達川さん。マヨネーズは、焼野菜の約1/3のメニューに使用しています。

効率化&クオリティ担保のため、
既製品や機械も部分的に活用

最後に、オペレーションの工夫について。『焼野菜 銀河団』は、14坪33席の規模で常時4~5人体制で運営しています。看板商品の「焼野菜」はツーオーダーで鉄板で仕上げるため、調理法は固定されますが、仕上げのソースや野菜のカット、調味料の組合せなどを変えることでバリエーションを出しています。オペレーションの負荷を和らげつつクオリティを担保するため、調味料はマヨネーズやアンチョビペーストなどの既製品も使いますが、必ずブレンドするなどアレンジを加えて差別化を図っています。ベースとなるソースは10種類ほどで、それを「チーズソース+ホワイトソース」、「トマトソース+チーズソース」といった具合に用途に応じて使い分けています。
また、人の手に頼らず仕込みができるように、店舗設計の段階から、スチコンやバイタミックス、低温調理機などの厨房機器の導入を前提に店づくりを行なっているのも特徴です。
「飲食店は、原材料費、光熱費などあらゆるコストが上がっているので、今後生き残るためには客単価を少しずつ上げていくしかないと感じています。そこで大事になるのが、お客様の期待値を下回らないこと。単価を上げるときは、食材原価を上げて満足感を高めつつ、20円、30円といった少額ずつ値上げをして顧客満足度を下げないようにしています」(達川さん)。

『焼野菜 銀河団』
が教える野菜レシピ

長芋 自家製白味噌と地からし

高温でサッと焼くことで、表面はカリッと、
なかはほくっとした食感になる

材料 一皿分(2人分)

  • 長芋 60g
  • ブレンド塩 1g
    (藻塩や出汁粉末等を合わせた自家製調味料)
  • サラダ油 5g
  • 自家製白味噌と地からしのソース* 下記より30g
  • 黒こしょう 2g(適量)

【自家製白味噌と地からしのソース】
作りやすい分量

  • A 白味噌(京都産) 300g
  • A 地からし 13g
  • A キューピー マヨネーズ 10g

作り方

  • ①【A】を混ぜ合わせ、ソースを作る。
  • ②長芋は皮をむき、長さ5cm程度の棒状にカットする。
  • ③200℃の鉄板に①をのせ、自家製ブレンド塩をふる。
  • ④ディスペンサーに入れたサラダ油を回しかけ、焼き色がつくまで焼く。
  • ⑤皿に①のソースを盛り、焼いた③をのせる。黒こしょうをふる。

作り方

  • ①【A】を混ぜ合わせ、ソースを作る。
  • ②長芋は皮をむき、長さ5cm程度の棒状にカットする。
  • ③200℃の鉄板に②をのせ、自家製ブレンド塩をふる。
  • ④ディスペンサーに入れたサラダ油を回しかけ、焼き色がつくまで焼く。
  • ⑤皿に①のソースを盛り、焼いた③をのせる。黒こしょうをふる。

ズッキーニ アンチョビバターソテー

ズッキーニは、味をしみこみやすくするため
細かく切り込みを入れる。

材料  一皿分(2人分)

【アンチョビバター】 作りやすい分量

作り方

  • ①【A】を混ぜ合わせ、アンチョビバターを作る。
  • ②ズッキーニはヘタを落として縦半分に切り、身のほうに格子状に切り込みを入れる。
  • ③200℃の鉄板にズッキーニを置きアンチョビバターとサラダ油を引き、水を入れ3分間蒸し焼きにする。ズッキーニに火が入ったらさらに焼き色がつくまで焼く。
  • ④皿に焼いたズッキーニを盛り、ほしえぬ アンチョビーソースをのせ、きざんだパセリをふる。

作り方

  • ①【A】を混ぜ合わせ、アンチョビバターを作る。
  • ②ズッキーニはヘタを落として縦半分に切り、身のほうに格子状に切り込みを入れる。
  • ③200℃の鉄板にズッキーニを置きアンチョビバターとサラダ油を引き、水を入れ3分間蒸し焼きにする。ズッキーニに火が入ったらさらに焼き色がつくまで焼く。
  • ④皿に焼いたズッキーニを盛り、ほしえぬ アンチョビーソースをのせ、きざんだパセリをふる。

(ポイント)
鉄板は、低温(100℃)と高温(200℃)の2つの温度帯に分けて使い分け。高温は、野菜を炒めたり焼いたり。低温はおもに肉を焼いたり、保温の目的で使う。「温度が一定なので、フライパンに比べて調理のブレが出にくいのも鉄板料理のメリット」と達川さん。
野菜は皮をむく、カットするなどの仕込みをしておき、オーダーごとに焼いて1品10分以下で提供。焼野菜の品数を絞ることでオーダーをある程度集中させ、複数卓分まとめて調理ができるようにしています。

企画協力:株式会社柴田書店

2025/08/07時点