まだ食べられるのに廃棄されてしまう食品を「食品ロス」といいます。日本の食品ロスは、年間500万トン以上(農林水産省及び環境省「令和2年度推計」)。これは、日本人全員が毎日茶碗1杯分のご飯を廃棄するのと同等の量だそうです。その半分が家庭、半分が食品関連の事業者から発生しています。食品ロスは、食品メーカーはもちろん、流通、家庭など食にまつわるあらゆる場面が関係する難しい課題だと言えます。
キユーピーグループは、限りある食資源を無駄なく有効活用するために、野菜の芯やへた、外葉や皮などこれまで廃棄していた部分の有効活用、商品の製造工程で発生する食品ロスや商品廃棄の削減にグループを挙げて注力しており、「キユーピー やさしい献立」の開発チームでも取り組んでいます。
「やさしい献立」が実現した賞味期間延長による食品ロスの削減について、キユーピー 家庭用本部 育児・介護チーム 井口 直樹に聞きました。
賞味期間延長で食品ロス削減
「やさしい献立」は、日常の食事から介護食にまで幅広く使っていただける“やわらか食”です。肉や魚介はふっくらとやわらかく、まとまりやすい食感にするために、食材のブレンドを工夫したり、野菜は素材ごとにひと手間多く煮込んだりと下処理・下調理にもこだわっています。
2022年秋、やさしい献立シリーズ全52品のうち31品の賞味期間を19カ月から25カ月に延長しました。これにより流通段階での食品ロス削減が期待できます。
「商品の流通には、『3分の1ルール』と言われる商習慣があります。賞味期間の最初の3分の1以内で販売店に納品する、賞味期間が残り3分の1未満になったら店頭から下げる、というものです」
このルールのもとでは、賞味期間の3分の1以内で納品されなかったり、賞味期間の残りが3分の1以下になったりした商品は、メーカーに返品、あるいは廃棄になる可能性があります。期限切れの商品を販売しないように生まれた商習慣ですが、大量の食品ロスの発生につながるという側面があります。
「ルールの背景には、加工食品でも“新しい方がいい”というお客様の意識が日本では根強いこともあります。ルールのあり方をお取引先と連携して検討する一方、私たちメーカー自身の工夫として賞味期間の延長に取り組みました。賞味期間が長くなることにより、流通・販売の各段階での食品ロスが発生しにくくなります」
賞味期間は、商品の特性に応じてさまざまな試験をし、安全性や品質、そしてもちろんおいしさが保たれる期間を評価して決めます。今回賞味期間を延長した商品は、パウチやカップに入ったレトルト食品です。レトルト食品は、気密性のある袋や容器に食品を詰め、密封した後、高温・高圧での殺菌を行うことで、長期間の保存を可能にしています。
「食品ロス削減の観点から、やさしい献立でも適切な賞味期間を改めて評価しました。賞味期間が延びたことで、購入いただいたお客様の手元で賞味期限切れになることも少なくなると期待できます。賞味期間延長をはじめとした近年の取り組みで、流通・販売段階での商品廃棄が約3分の2に減る効果が表れています(対2019年)」
お客様の使いやすさにもメリットが
環境への配慮から行った賞味期間延長ですが、商品購入後に保管できる期間が長くなることで「備蓄食として使いやすい」というメリットも生まれました。やわらかくする必要がある介護食は普通の食事以上に災害時の確保が難しいとされています。自然災害が多発する近年、キユーピーではやさしい献立を非常食として備蓄する提案を続けています。
「介護施設でもやさしい献立を備蓄食として活用いただいています。賞味期間が約2年に延長されたことで、年1回備蓄を入れ替える施設での期限切れの心配がなくなった、助かるという声がありました」
家庭での備蓄用にも便利に使っていただきたいと考えています。
「コロナ禍を経た最近では『食事の準備が辛い時に、初めて利用してみた』という声が寄せられています。普段は普通の食事をしている人でもやわらかい食事が欲しいと感じる時がありますよね。常温で長期間保管できて、調理も必要ないので便利に使っていただけると思います。最近も、歯の治療中の食事に使ったというお客様から『食べられるものが限られる時にもいろんなメニューを楽しめて、とてもありがたかった』という声をお客様相談室に頂きました。食事に困りごとがある場面でお役に立てるのは、とてもうれしいですね」
環境配慮の視点で商品を見直したことが新たな価値にもつながりました。
「お客様にも、環境にもいろんな“やさしい”を提供できる商品でありたいですね。これからもおいしくて使いやすい商品をお届けするのはもちろん、商品を取り巻くさまざまな社会課題に一層目を向けていきたいと思います」
2023年6月公開※内容、所属、役職等は公開時のものです