サンドイッチ&パンでSDGsに取り組む!
環境にもお店にもやさしい、エシカルなメニュー作り

レシピ監修
フードコーディネーター ナガタユイさん

食品メーカーでのメニュー開発、食材専門店での商品開発、企画運営に携わった後、フードコーディネーターとして独立。サンドイッチを中心に、パンのある食卓の提案を続けている。著書に「サンドイッチの発想と組み立て」、「卵とパンの組み立て方」(いずれも誠文堂新光社)、「フレンチトーストとパン料理」(河出書房新社)等。

「サンドイッチとパンを通して考える身近な「SDGs」とは」

日々の暮らしの中で「SDGs」や「エシカル」という言葉を耳にすることが多くなりました。中学生の息子は学校で「SDGs」に関するレポート作成があったりして、親子の会話の中でも出てくるほどです。
「SDGs」とは Sustainable Development Goals(持続可能な開発目標)の略で、国連加盟193か国が2030年までに達成するために掲げた、持続可能でよりよい世界を目指す17の国際目標です。食の分野で考えると、材料・調理法・販売・提供などさまざまな工程で地球・動物・植物・環境・人などに優しい工夫、配慮をしている取組みがそれに当たります。そして、消費者それぞれが各自にとっての社会的課題の解決を考慮し、そうした課題に取り組む事業者を応援しながら消費活動を行うことを「エシカル消費」といいます。これは「SDGs」の17のゴールの一つである「つくる責任 つかう責任」に関連する取組です。
実際に私の周囲でも「SDGs」に配慮してお店や企業、商品を選ぶ「エシカル消費」に敏感な方が増えています。実践するためには、情報が必要ですし自分自身の選択眼を磨かなくてはならない気がして、ちょっと敷居が高く感じます。
地球規模で考えると確かに壮大なプロジェクトですが、まずは気負わずに身近な取り組みから始めてみようと思いました。例えば、食材の廃棄を極力減らすには?それをメニュー開発にも取り入れるなら?……そんな視点なら、今日からすぐに自分1人でスタートできそうです。
ここでは、私にとって一番身近なサンドイッチやパンから、できることを考えてみることにしました。

環境にもお店にもやさしい、
エシカルなメニュー作り「トマトとサンドイッチ」

海外のマルシェやスーパーマーケットが好きで、旅先では必ず訪れています。
日本国内なら、農産物の多い道の駅や農協の売店を巡るのも楽しみのひとつです。先日も東北の道の駅で、大きななす、大袋のにんにく、立派なカボチャなどを買いました。それをスーツケースに突っ込んで持って帰ったので、家族には驚かれてしまいました。
都会での暮らしは便利だけど、スーパーマーケットに並んだ形の整った野菜たちは畑からの距離を感じます。その点、生産者の顔が見えるマルシェの野菜は、形や大きさも不揃いだけど生命力を実感することができます。
家庭で作るサンドイッチなら、食材に合わせて作れるので野菜の形やサイズは気にしなくていいけれど、お店のサンドイッチはメニューの写真と同じように、いつも安定した見た目に仕上げたいし、原価計算もあるので重量が違うのは困りものです。なので、野菜や果物のサイズも指定して発注することが当たり前になっています。
私も、レシピの撮影用には用途に合わせて野菜の形やサイズも選んでいます。
でも、そんな自分自身の行動に違和感を感じるようになりました。これからのメニュー開発は、もっと柔軟に、目の前にある野菜をありのまま活かせるように考えることが、エシカルなメニュー作りの第一歩になりそうです。
(写真はパリ・ラスパイユのビオマルシェ)

例えばトマト。B.L.T.など、サンドイッチには欠かせない野菜の一つです。スライス(輪切り)して使う場合、真ん中は大きいけれど、端の方は小さくなります。また、上下の部分は皮でおおわれ、みずみずしいゼリー状の部分は含まれません。ハンバーガーに端っこの部分が入っていて、がっかりすることがたまにあります。
最近私が気に入っているのは、くし形切りです。これなら、端を気にすることなく全て同じサイズに切ることができます!
くし形切りのトマトのサンドイッチに出会ったのは、台湾のサンドイッチ屋さんでのこと。ラフにはさまれたトマトの断面が三角で、食べにくそうに思ったのですが、食べてびっくり。均一な厚みではないからこそ、トマトのジューシー感が際立ち、サンドイッチの味わいにコントラストがあり新鮮なおいしさでした。
(写真はトマトのくし形切り、台湾のサンドイッチ)

くし形に切ったトマトは、どんなパンでも合わせることができますが、ここではトーストのポケットサンドをご紹介します。4枚切りのトーストを縦半分に切り、カット面を上にして切り込みを入れ、ポケット状に開きます。ここに、こんがり焼いたベーコン、シャキシャキのレタス、そしてくし形切りのトマトを入れます。合わせるソースは、シーザーサラダ ドレッシングとマヨネーズの組み合わせがお気に入りです。パルメザンチーズをふりかけると、風味がアップ!B.L.T.とシーザーサラダのおいしさが合体した、スペシャルなサンドイッチの完成です。
パンがポケット状になっているので、具材を食べきることができ、トマトのジューシー感をストレスなく楽しめます。
トマトをスライスして使う場合には、ヘタの部分やカットして使いきれなかった残りを粗く刻んでフレッシュトマトのサルサにしましょう。アボカドペーストを合わせたバーガーにトッピングすると、食べやすく彩り良く仕上がります。
さらに、生で使いきれなかった場合は、スープに入れたり、加熱してソースにしたりするのもおすすめです。こんな考え方は他の野菜にも応用できそうです。
(写真は、くし形切りのトマトで作る厚切りトーストのポケットB.L.T.、フレッシュトマトのサルサを合わせたハンバーガー)

環境にもお店にもやさしい、
エシカルなメニュー作り「フレンチトースト」

みんな大好き、フレンチトースト!ベーカリーカフェやホテルの朝食メニューとして大人気です。
フランス語ではパン・ペルデュ(Pain Perdu)といい、直訳すると「失われたパン」。失われたパンとは、古くてかたくなった過去のパン。そんなパンをおいしく復活させたのが、パン・ペルデュなのですね。
たまごと牛乳で作るアパレイユにかたくなったパンを浸してやわらかくしてから焼き上げるのが基本です。しっかりしみ込ませるには時間がかかるので、24時間つけ込んでから焼き上げたフレンチトースト、なんてキャッチコピーが付いていることもよくあります。
フランスの料理辞典に載っているレシピは、実は長時間のつけ込みを必要としません。その代わり、牛乳、砂糖、バニラビーンズで作るアパレイユと、たまごと牛乳と砂糖のアパレイユの2種類を用意します。牛乳入りのアパレイユにパンを浸してからたまご液にくぐらせて、バターで焼けばあっという間に出来上がり。オーダーが入らなかったから廃棄する、なんていうフードロス(食品ロス)も回避できる上に、生焼けの心配もなく、ふんわりじゅわっと香りのよいパン・ペルデュが簡単に作れます。
ちなみに、日本でフレンチトーストが浸透するきっかけとなったのは、1979年に公開されたアメリカ映画「クレイマー、クレイマー」だそうです。映画の前半と後半に出てくる朝のフレンチトーストのシーンに、お父さんと小さな息子の日常の変化が凝縮されています。
このシーンをじっくりと見てみると、アメリカのフレンチトーストが忙しい朝にぴったりのメニューであることがよくわかります。たまごを溶いて少量の牛乳を合わせたものに薄めの食パンをさっとくぐらせて、バターを溶かしたフライパンで焼いたらあっという間に完成で、この手軽さも魅力です。
味付けはお好みで、メープルシロップやはちみつをかけましょう。素朴で家庭的な味わいは、日常の一皿として飽きることがありません。

パンにアパレイユをしっかりとしみ込ませて、オーブンで時間をかけて焼き上げるのであれば、ブレッド・プディングにしてしまうのも良いでしょう。フレンチトーストよりもアパレイユが多めでプリンに近付く分、デザート感が増します。パンが入っているので、プリンよりも食べ応えがあり、軽食としての満足度が高いのも魅力です。バゲットや食パンで作ればプレーンな味わいに、ブリオッシュならリッチで贅沢な風味に仕上がります。レーズンやくるみ入りのパンなら、バナナを加えてキャラメルソースを添えるのがおすすめです!
食パンのサンドイッチを作る際に問題になる「パンの耳」。パンの耳を揚げて砂糖をまぶすも定番ですが、私のお気に入りは、パンの耳だけで作る「パンの耳・プディング」です。
パウンド型にパンの耳を詰めて、アパレイユをたっぷりと注ぎます。かたい耳はアパレイユを吸い込むのに時間がかかるので、冷蔵庫に入れて1日かけてしっかりしみ込ませるのがポイントです。オーブンで焼き上げると、モザイク状の断面が楽しいパン・スイーツに生まれ変わります。
乾燥してかたくなったパンも、こんな風に活用することで、とびきりのメニューになります!そして、かたくなったパンの方が、アパレイユを吸い込みやすく、いい仕上がりになることは、作り比べてみるとよくわかります。パンにたまごが合わさることで、パンがさらにおいしく、長く楽しめます。
焼き立てのパンだけでなく、時間が経ってかたくなったパンを活用したメニューがあると、「エシカル」と謳わなくても、パンへの愛が伝わります。そして、それを感じたお客様はパンを最後まで大切に味わってくれるはずです。
(写真は左:ブリオッシュで作る「ブレッド・プディング」、右:「パンの耳・プディング」)

参考

※SDGs:Sustainable Development Goals(持続可能な開発目標)の略
2015年9月の国連サミットで加盟国の全会一致で採択された、国連加盟193か国が2030年までに達成するために掲げた、持続可能でよりよい世界を目指す17の国際目標

※エシカル:「倫理的」「道徳上」(ethical)

※エシカル消費:倫理的消費。
消費者それぞれが各自にとっての社会的課題の解決を考慮したり、そうした課題に取り組む事業者を応援しながら消費活動を行うこと。持続可能な開発目標(SDGs)の17のゴールのうち、特にゴール12「つくる責任 つかう責任」に関連する取組。

2022/10/12時点