特別インタビュー
10項目でチェック!
おいしく食べ続けるために必要な
「自食力(じしょくりょく)」とは?

日本歯科大学口腔リハビリテーション多摩クリニック院長 
菊谷 武 先生

家族で食卓を囲む時間、おいしい食事を食べに行くことなど、食べることは人生の大きな楽しみです。しかし、年齢とともに「以前より硬いものが食べにくくなった」「お茶や汁ものでむせるようになった」と感じるようになった方も多いのではないでしょうか。いつまでもおいしく楽しく食事を食べ続けられるために必要な、自分の口から食べ続ける力=「自食力(じしょくりょく)」について、日本歯科大学口腔リハビリテーション多摩クリニック院長の菊谷武先生にお話を伺いました。

=  記事目次  =


見逃しがちな「自食力」とは?

「自食力」という言葉、初めて聞いた方も多いのではないでしょうか?「自食力」とは、食事をおいしく食べるために必要な総合力を指します。目に見える体の不調には気づきやすいですが、一番大切な食べることは、あまりにも当たり前で日常になじんでいるため、そのささいな変化をつい見逃してしまいがちになります。歯の不調、口の中の変化については二の次、三の次にしてしまうという人が多いのが実情です。しかし「自食力」は、体づくりにも直結する非常に重要な力なのです。


「食べる」というメカニズム

 私たちの口は、食べ物を味わい、咀嚼(そしゃく)するために「巧みに動かすこと」ができ、「かみ、すり潰すための歯」があります。食べ物のおいしさを味わうためには、「かむ、すり潰す」というパワーだけではなく、味を唾液(だえき)が運び、それによって味蕾(みらい)が刺激され、喉(のど)を経由しておいしい香りを鼻に届けるという「巧みな口の働き」が欠かせません。唾液が出にくくなると食べ物は「砂をかんだような味」になると聞きますし、しゃべることにも支障が出てきます。訪問診療の際、ほとんどしゃべれなかった方が口腔ケアをしたら、なめらかにしゃべることができるようになるというケースも少なくありません。それほど、口の健康とケアは大切なのです。

また、歯触りや歯応えは、食べ物のおいしさを感じる感覚の一つですが、これは、歯と歯茎の間にある歯根膜(しこんまく)という組織がセンサーのような働きをしているためです。歯は残っていても、実は歯根膜が衰えているというケースも少なくありません。この感覚が落ちると歯は残っていてもおいしさを感じにくくなります。

年齢を重ねると「食事でむせる」ことを感じはじめますが、年のせいかな?と放置しておくと危険です。実は、食べにくいなどの自覚はなくても、ゆっくり食べるようにしたり、自然とやわらかいものを選ぶようになっていたりします。その変化に気づく事はなかなか難しいですが、「最近食べる力が弱ってきているかもしれない……」という「気づき」を大切にしていただきたいです。口腔機能の衰えは、脳血管障害や誤嚥性(ごえんせい)肺炎につながる可能性があります。「私には関係ない」と思っている方こそ、「食べる力」について、若いうちから“自分ごと”として日々意識していただきたいです。


「自食力」をチェックしてみましょう!

 「自食力」に関して、ぜひ一度チェックしてみてください。例えば、家族で食卓を囲む時や外食時でも、「これはいらない」「食べにくい」など家族や周囲の人と同じ食事を楽しめなくなった場合などは、食べる力が弱まっている可能性があります。さらに、食後にブクブクうがいをした際、食べかすが以前より多くなったという場合はかむ力の低下が考えられます。硬いものをかむ際に、痛みを感じるという場合は、より注意が必要です。 また、家族以外の友人などと電話などで会話をする際に、何度も聞き返されたり、「声が聞き取りにくい」と指摘されたりする場合は、口の機能が低下しているサインです。体重の減少や、きんぴらごぼうなど硬い食材を使った料理をやわらかく煮込むようになる、炊飯器のモードを変えているなど、日常生活で何げなく行っている調理の仕方が変わったなども重要なポイントです。このチェックリストを活用し、ご自身の日常生活を振り返ることで、日々のちょっとした変化について今一度考えてみてください。

「自食力」チェック
(セルフチェックリスト)

チェックの数が1〜3個

今までの食事を見直し、自分に合ったかたさの食事を検討してみましょう。ご自身の食べる力に合わせ、いつもより少しやわらかいものを食事に取り入れることもおすすめです。

チェックの数が4〜6個

自食力が弱まってきているサインです。普段の食事のうち、食べづらいものはやわらかくする、または市販のやわらか食や、とろみ調整食品を活用しましょう。

チェックの数が7個以上

自食力を超えた食事をしているか、食べる力が顕著に衰えている可能性があります。今までの食事の切り替えを行い、市販のやわらか食なども使いながら、栄養をとるよう心がけましょう。

菊谷先生のインタビューをもとにしたセルフチェックです。日々の食事の見直しに加え、専門機関での受診・検査をお勧めします。

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いつまでも自分の口で食べ続けるために

好きな食事を自分の口から楽しんで食べ続けるために必要なことは、「おいしいものを食べ続けることをあきらめない」という気持ちです。家族と一緒に笑顔で食卓を囲める時間を大切にするためにも、食に対する意欲を失わず、ご自身の食べる力を定期的にチェックして、 変化に気づくことが重要です。食べられないものが増えれば栄養バランスが崩れますし「おいしいものを食べたい」という気持ちは、心身の健康に直結します。だからこそ「自食力」の変化を見逃さないこと、自分の体調や食べる力に合ったやわらかさになるよう調理を工夫することも必要です。最近では、日々の食卓に手軽に取り入れることのできる市販のやわらか食や、とろみ調整食品も増えてきているため、これらを上手に活用してみてはいかがでしょうか。

「自食力」に合わせて手軽に使える
「キユーピー やさしい献立」

 「キユーピー やさしい献立」は、多くの人の「口から食べる、をあきらめない」思いに寄り添った、ユニバーサルデザインフードです。食べる人のかむ力、飲み込む力に合わせて4段階のやわらかさに分かれており、介護中の方はもちろんのこと、体調がすぐれない、歯の治療中などの理由から食べる力が弱まった時にも、適切な食事をとることができます。だしを効かせた味づくりで塩分が控えめなのもうれしいポイントです。「自食力」のセルフチェックと合わせ、ご自身やご家族の体調や好みに合わせてお使いください。


菊谷 武先生

日本歯科大学教授
日本歯科大学口腔リハビリテーション多摩クリニック院長

1988年、日本歯科大学卒業。歯学博士。「食べること」「話すこと」などの口のリハビリテーションを目的とした日本歯科大学附属病院口腔リハビリテーション多摩クリニックで、外来診療や訪問診療を行う。書籍の執筆やメディア出演も多数。

朝日新聞Reライフ.netより転載
(掲載日:2022年11月9日)